城メグリスト

萩原さちこのプロフィール

城郭ライター、編集者。小学2年生で城に魅せられる。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演などもしています。

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ツアーガイドのおしごと

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阪急交通社さんで専任ガイドをしている「城メグリストと行く!新発見!お城入門 」、
ご好評につき、ついにバスツアーが出動しました!
第3回は、小田原城&石垣山城。

今回のテーマは

●後北条氏滅亡の舞台をめぐる
〜後北条氏最強の本城、小田原城とそれに対抗して秀吉が築いた石垣山一夜城。それぞれの特徴とは?〜
●中世城郭と近世城郭の両方を見る
〜滅亡後に大改築されながら、後北条氏時代の遺構も共存する小田原城。2つのお城を楽しむ〜
の2つ。

①小田原城址公園(平櫓・馬出門・馬出曲輪・銅門・常磐木門・天守閣)→(御用米曲輪)
→ ②八幡山古郭東曲輪 → ③小峰御鐘ノ台大堀切東堀→ ④ 石垣山一夜城 → 小田原鈴廣
というコースでご案内してきました。

小田原城の天守は鉄コン製の復元ですが、実は外観は1703年再建の天守に忠実。
小田原城は建造物は何ひとつ現存していないし、石垣も関東大震災でほぼ崩落して遺構がほぼ皆無。
でも、復元された建造物でも見どころはあるものです。
なぜ、江戸城の石垣は崩れなかったのに小田原城は壊滅したのか、という考察材料にもなります。
中世城郭と近世城郭とは?というところから、
立地による城の種類から天守の構造、城門や虎口の構造も含め、
そのあたりの城の楽しみ方もお話しつつ。

バス内では、小田原城のバックボーンや歴史、後北条氏の城の特徴、
1590年の関東征伐のことから北条と秀吉の両者の城のこと、
そして秀吉の城攻術や後北条氏が与えた影響などもお話させていただきました。

そしてそして、今回のツアーでがんばって組み込んだのが、
小田原城の特徴である中世城郭と近世城郭の共存、という部分。
中世城郭NO.1の「総構」という存在、それが持つ威力と影響、
そして近世城郭にリフォームされ中世の姿が失われる城が多い中で、
共存しているというのが小田原城のおもしろさです。
とはいえ全長9kmのすべてはまわれないので、手持ちの写真付きで解説しつつ、
小峯御鐘ノ台大堀切東堀&西堀へご案内しました。
意外にも、反響よかったですねえ、大堀切。
「さんざん歩かされて、ただの土手しかないじゃないか」と
不満な顔をなさる方がいるかと予想していましたが、
意外にもみなさん興味津々。わざわざ堀底へ下りて歩き、感嘆してらっしゃいました。
「こんなところ来てもおもしろくないはず」と決めつけているのはこちらかもしれないな、と反省。

そして、石垣山一夜城。
あいにくの雨もこの頃には上がり、最大の見どころ、井戸曲輪にもご案内できてよかったです。
この城は遺構も価値があるけれど、なぜ築かれたのか、
どの部分にどんな価値があるか、という背景が肝心かつおもしろいところ。
遺構を発見・確認するのも楽しいことですが、目に見えない姿や様子を思い描いたり、
ミステリーを解明したりと、想像を膨らませることも楽しみのひとつ。
おそらく何も知らずに訪れたらただの崩れた石なんでしょうけれど、
どれだけ価値のあるものなのか、城好きは何を見て何を気にするのか、
という点をお話すると、みなさんの反応が変わったのが見て取れました。
ああ、こんなふうにお話すると石垣に興味がない人も目の色が変わるのだな、と勉強にもなりました。

時間の関係上、城内をくまなくご案内することはできませんでしたが、
実際に歩いて、その広さや高さ、小田原城との距離感を感じてもらう、という演出に気を配ったことは、
我ながらツアーの満足度につながったと思います。
実際に見て、歩いて、感じてもらうこと。これがやはりいちばん大切なんだなあと感じたのでした。

毎回思うことですが、どんなジャンルでもどんな職種でも、扱う回数が増えたり専門的になってくると
感覚が麻痺してきて、意識してもボーダーラインの設定ができなくなってくる。
私にとってのツアーは、対象者のダイレクトな反応を知れる場で、書く以外の表現方法を学べる実戦の場。
これは、執筆業ではなかなか遭遇できない場なので貴重です。
もちろん、お仕事である以上お客さまに楽しい1日を提供するのがいちばんで、
そこに城の魅力を知っていただくということをミックスさせていくのが仕事なわけですが。
ただ、エンドユーザーありきでモノをつくりたいし、そういうつくり方しかできないな、と。
そういう意味では、私はつくづく自分の名前で仕事をすることに向いていないなあと思います。

このシリーズが終わったら、しばらく執筆業に集中すべきかなあと思っていたのですが、
こうして久々にガイドをしてみると、考える部分があります。
前にも書いたけれど、<書く>表現と<話す>表現のできることが異なるように、
<読む>楽しさと<聞く>楽しさはまったく違うものなのなのですよね。
そして、両方楽しむ人もいるけれど、どちらかに分かれるものだとやはり実感しました。
そうなると、後者にも価値があるし、私ができるビジネス的なミッションがあると感じてしまうのです。

欲しいなあ、処理能力と時間が。
しかし限界があるのが現実。いろんなコントロールが難しいなあと感じた1日でした。

 

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