城メグリスト

萩原さちこのプロフィール

城郭ライター、編集者。小学2年生で城に魅せられる。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演などもしています。

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誇り高きデザイン 鍋島

サントリー美術館で開催中の「誇り高きデザイン 鍋島」へ行ってきました。

「鍋島」とは、17世紀後半から鍋島藩窯で焼かれていた磁器のこと。
江戸徳川将軍家の献上品や贈答品としてつくられていた、高級品です。
ちょっと違うけれど、イメージ的には少し前の<宮内庁御用達>のようなステイタスのあるもの、とでもいいましょうか。

明治4年に廃止されるまで、江戸時代を通じて200年あまり続いた鍋島藩窯。
【肥前×唐津 陶磁器展 at 目黒雅叙園~酒井田柿右衛門&今泉今右衛門&中里太郎右衛門 の世界~】→ のブログにも書きましたが、
衰退の一途を辿った鍋島ではあるものの、
後継者の職人さん達が伝統工芸をなんとか継承させようと努力を重ね、さらに進歩を遂げ、現代にいたります。

 



※画像は鍋島窯、サントリー美術館HPより引用させていただいています。

1枚1枚の器すべてにストーリーが感じられて、まるで命を吹き込まれたかのよう。
繊細で格調高い世界、とはまさにこのことです。

「350年も前に、こんなにも美しい芸術があったのかー!」と、ただただ息を飲むばかり。
350年も前の日本人に、こんなに高い美意識、デザインセンス、ユーモア、繊細な技術があったなんて・・・!

お城を見ているときも感じることですが、
古き良きものには「同じ日本人なのだなあ」という安心感のような感動を覚えます。
もちろん進化してこそのものもあるのだけれど、根本の美意識は普遍なのだと思います。
もしかしたら、今よりももっと感性が高くて、研ぎすまされていたのかもしれない。
情報も事例も先進技術ないゼロの状態から、これだけのものを生み出しているのですから。

 

 
 
変わらない人間らしさ、といえば、17世紀後半の盛期につくられたという<色絵 桜柴垣文大皿> 。
桜の花びらがハートになっているのですよ。
それに、なんともまあ、かわいらしい赤色で。なんておちゃめなんでしょう!
思わずほっこりしてしまうような、本当に咲いているみたいなお花なんです。
これもお城づくりを見ているときに思うことですが、
人間って、いつも時代にも共通する遊び心みたいなものがあって、
ふと心あたたまったりするものって、ずっと変わらないんじゃないかな、と思います。
 
 
ジトメトリカルパターンのような近未来を感じさせるデザインもあれば、
北欧のテキスタイルのような素朴でやさしいものもある。
まるで景色をそのまま切り取ったような、空気感あふれる風景画もある。
染付けを基本とした、赤、緑、黄色の色絵。
ほんのりとした青磁釉が織りなすニュアンスも、とても素敵。
やさしいまるみやカーブなどのフォルムにまで、気品があふれかえっているから不思議です。
 
 
創造力をかき立てるような曲線使い、
墨の濃淡の使い分け、ラインの変化、細かすぎる柄模様に、夢中でギリギリまで近づく私。
5回くらい、おでこを展示ガラスにぶつけそうになりました(笑)
「この細かい模様の連続、MACだったらできるけど、手じゃ描けないよー!」と、
隣でデザイナーのお友達が言っていました。同じくおでこをぶつけそうになりながら(笑)
 
 
 
 
壷をモチーフにした作品が続いた時代の作品。
私はこの壷のまるみとか、陶器でよくあるヒビみたいな模様をモチーフにした感じとか、とても好き。
青磁もよーくみると濃淡があって、とっってもステキです。
この絵をモチーフにした手ぬぐいを購入したのですが、なんだかモダンになっているのがスゴイ!
 
 
たまに“参考作品”として鍋島以外の作品が2点並んで展示されています。
鍋島がモチーフを参考にしたり、鍋島が影響を与えたりした作品と比較する材料なのですが、
なるほどその違いは素人目にもわかります。
どちらがいいとか悪いとかではないのだけれど、
色、形、デザイン、バランスなど、すべてにおいてどことなく格調高くて、芯みたいなものもある。
老舗の誇りみたいなものも感じました。
 
 

 

 
現代における「色鍋島」の名門・14代今泉今右衛門氏の作品も展示されていました。
それはそれは、もう究極の美です。
「日本の伝統工芸って、ここまでハイレベルなんだぜ!!」となぜか私が誇らしく思えるほど。
もう、これはどんなに陶磁器に興味のない人でも実物を見たら「すげー!」と言うはずです。
写真のものではないですが、<雪花墨はじき雪紋皿>がやはり異彩を放っていました。
 
 
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サントリー美術館は、どの企画展も私の感度にピタリとハマる。
しかも、毎回充実の展示内容で、いつも時間が足りないのです。
今回も5件の重要文化財を含む、約130点もの作品がずらり!
だけれど、時間が足りないのは数が多いせいだけではなく、この美術館の展示方法にあると思います。
「技」「色」「構図」「モチーフ」に着目して構成され、それぞれ解説されていましたが、
この構成が整理されていてわかりやすく、鍋島の世界にぐぐっと引き込まれてしまうのです。
文様のお器の製作ステップの展示もとても親切で、すばらしさを伝えようとする心遣いを感じました。
下絵を転写し、筆で描線を描いて釜に入れて焼き、色彩をつけて仕上げて・・・
プロセスの理解とともに、職人の忍耐や技術の奥深さもじんわりと伝わってきました。
 
 
 
目も心も充実した展覧会でした。もう1回行きたいなー。
 
 
 
 
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