中公新書「幕末維新の城」
少し前になりますが、以前お世話になった編集者さんからご恵贈いただきました。
一坂太郎さんのご著書、
「幕末維新の城 – 権威の象徴か、実戦の要塞か」 (中公新書)。
タイトルやオビをさっと拝見した限りでは
幕末まで生き残った城や幕末に築かれた城の特徴や在り方、
そして幕末に戦いの舞台になった城を取り上げたものかな、と思ったのだけれど、
それとは少し違うものでした。
城を通して幕末というカオスな時代を読み解く、という感じです。
幕末というのは、日本のしくみが激変するという社会的な転換期であるだけでなく、
城郭史においても激動の時期なんですよね。
しかし、その部分はあまあり語られることはなく
城本などで私が書く際も“おまけ”のような扱いになってしまいます。
ですが、江戸時代初期の築城ブームと城郭史の発展ストップの後、
幕末までただなんとなく政庁・藩庁である城が存在するはずはなく
200年も経てば、社会も城の在り方もまったく変わるわけですから、
江戸中期〜幕末までの空白の時間も含めた城の変化や幕末の在り方は、
私としても興味深いところではあります。
城の特徴がどうこうという本ではありませんが、
現在を生きる私たちのツボやポイントを押さえてくれているので、読んでいて心地よい。
城そのものの細かなところでは尋ねてみたいところやもっと知りたい部分もありましたが、
なにより幕末の城のダイナミズムのようなものが伝わってくるのが魅力的でした。
決して取っ付きにくい内容ではなく、
コンテンツだけをざっと見てもわかるように、
全国の40城を取り上げて、それにまつわるエピソードとして書かれているので
内容としてはわかりやすく、とにかく読みやすいと思います。
幕末の動乱でその城がどのように巻き込まれ、
どういった状況下でどういう運命を辿ったのか、がよくわかります。
ポイントとなる写真も大きく掲載されていて、とても親切だなと思いました。
個人的には、冒頭の鯖江城や福江城、
そして柳川城のことが取り上げられていたのはうれしかったです(笑)
私も、こんなふうなしっかりした新書を書きたいな。
時代ごとの城、という観点はちょっとおもしろいかも。
城というのはその時代を象徴するものですから。
(かといって明確に定義ができないあいまいなところも魅力なのだけれど)
各時代を象徴するような城をピックアップして、
城から時代を斬るようなものはどうだろう。
城なんて残っているかどうかだ、みたいな認識がまだまだあるのなら、
かなり目からウロコかつバリエーション豊かなものになると思うのだけれど。
地域のことを書くのが好きだから、藩の事情など盛り込むのもおもしろそう。
わりと、幅広い読者が手に取りやすい、やんわりベーシックな内容のものでよいのかも…。
軍事的な施設としての観点からいうと、
まず兵器の威力が格段に違うというのもけっこう語る要素としては意外と新しい気がします。
…ああ、「幕末維新の城」の感想を書こうと思ったのに、
いつの間にか企画を思いついて語ってしまった。
うん、城本にもまだまだ可能性があるな。勉強しよう。
実はまださらっと読みなので、もう一度じっくり読ませていただきます。
中央公論社のK様、ありがとうございました。