浮世絵 戦国絵巻〜城と武将〜
太田記念美術館で【浮世絵 戦国絵巻〜城と武将〜】を見てきました。
前期/群雄割拠の時代〜本能寺の変、後期/天下統一〜戦国時代の終焉
の2期にわたり開催され、今回見たのは後期です。
江戸や明治の人々にとっても現代のような“戦国ブーム”はあったのでしょうか。
小和田哲男先生の図録中の解説によると、
いつの時代も人々は前の時代を追憶する傾向があり、
江戸庶民にとっても徳川幕府は忌避するもので、豊臣政権への憧れと回顧願望があったよう。
為政者への風当たりは、現代と変わらないのですね。
農民から天下人になった秀吉のサクセスストーリーは、当時も人気絶大。
それが、現代なら伝説に近い“ものすごく前のこと”なんですが、
江戸後期においては現実みのある“ちょっと前のこと”にしか過ぎないんですよね。
そのへんの臨場感や切実さみたいな温度差もおもしろいな、と思いました。
秀吉が絵の主役になるということは、徳川が家臣として描かれるということで、
もちろん江戸幕府が許すはずはなく、どんどん規制が厳しくなる。
そんな中でおもしろいのが、武将の名前の記述。
真柴久吉(=豊臣秀吉)、武智光秀(=明智光秀)、佐藤正清(=加藤清正)、浮島正則(=福島正則)というように、
仮名を使い架空の人物とすることで、幕府の審査をかいくぐっていたというのです。
もちろん、見る側にとっては<久吉=秀吉>と一目瞭然。
というか、幕府側もわかっていたでしょうが、このへんの審査基準はゆるいようです(笑)
戦国時代のことなのに、源平争乱時代や南北朝内乱時代の設定にしているなど、場面描写もハチャメチャ。
絵師のユーモアとフィロソフィー、幕府とのバトルが垣間見えました。
それから、幕末の黒船来航などによる脅威と江戸城炎上をリンクさせて
現代社会を風刺しているのも、なんともアーティスティックで粋。
浮世絵師というのはやはりジャーナリズムも不可欠なんだなー、などと感心してしまいました。
となると、さぞかし徳川家康の勇猛ぶりが崇められるかのごとく描かれているかと思いきや、
家康はじめ、徳川将軍の姿はどこにも見当たらない。
その理由は「徳川将軍は神格化した存在で、容易に描くなどもってのほか」ということだそうだ。
264年の栄華、などとひと言でいうけれど、
徳川幕府もいろいろ自己プロデュース大変だったのですねぇ。。
城の描写に関しては、
たとえばポスターに採用されている歌川貞秀の【真柴久吉公播州姫路城郭築之図】が
秀吉時代の三重天守の姿ではなく、江戸期以降(つまりは現在の姿)の白漆喰壁の五重の天守になっているなど、
<中世城郭であるはずなのに、江戸期の絵師ゆえに、江戸期以降の近世城郭を描いている>
という事実はリアリティがあって興味深かったのですが、
個人的には、浮世絵においての城の存在とか、絵師が城をどう捉えていたかとか、そういう考察がもう少し知りたかったかな。
合戦図も野戦が中心で、城をめぐる攻防というわけでもなかったですし、
戦国大名と城のつながりを感じさせられる説明もなかったのがちょっと残念。
「ああ、これ、城好きじゃなきゃおもしろさに気づいてもらえないじゃないかー」というもどかしさがあり(笑)、
城マニアとしては、〜城と武将〜というサブタイトルにはちょっと違和感がありました。
この手の展覧会に行くと、周囲はご年配の男性が大半なのですが、
明治神宮前という立地もあってか、今回は若い女性の姿が多く見られました。
(だからこそ、もっと城に興味を持ってもらえるよう城をフューチャーして欲しかったのですが…ブツブツ)
なんにせよ、喜ばしいことです。
図録がなかなか充実していそうなので、これからじっくり読みます。
城メグリスト