城メグリスト

萩原さちこのプロフィール

城郭ライター、編集者。小学2年生で城に魅せられる。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演などもしています。

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演劇「真田十勇士」を観て、歴史のエンターテインメント化を考える

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日本テレビ開局60年・読売テレビ開局55年特別舞台『真田十勇士』を青山劇場で観てきました。
知り合いが出演者の事務所スタッフということでご手配いただき、千秋楽を良席で。ありがとうございます。
脚本はマキノノゾミさん、演出はトリックの堤幸彦監督。

題材が歴史モノですが、歴史・城の描かれ方などの感想は最後にー。

演劇は、テレビや映画とは性質が違うもの。
だから、見慣れない人にとってはテレビ的な演出じゃないからよくわからない。
逆に、演劇ならではの表現方法が好きな人はテレビドラマが安っぽく感じたりする。

観劇を趣味のひとつとしている私は、後者。
なので、私は楽しめませんでした、この舞台。
つまらない舞台とか駄作とかではなく、あくまで好みの問題です。
端的にいうと、演劇でこれやっちゃNGでしょ、という
“(私が勝手に思っている)邪道”で成り立っているような舞台でした。

でも、それがダメというわけではありません。
演劇など見ない人でも知っている、いわゆる人気のテレビ俳優さんがズラリ。
コンセプトもはっきりしているし、演出もド派手でセットの使い方も上手。
相当稽古したとわかる、かなり贅沢でハイクオリティな舞台だったと思います。

テレビ局絡みの企画で堤幸彦監督の演出、ですからね。
そもそも対象としているのが私のような人ではないのです。
うーん、原作を読んでから映画を観に行くとたいていガッカリするのと同じような?
で、この舞台ははじめから原作は読まない人を想定してつくった感じ。
「有頂天ホテル」も「ステキな金縛り」も笑えるし新作を観たいと思うけど、
1800円払って映画館の大スクリーンで観る醍醐味はないな、と感じちゃうような?

舞台の最初に「○○役には今人気の俳優誰それー!」という
キャスト紹介ショーみたいなのがあったんですが、もう、私はこれでどん引きでした。
俳優を観にきてるんじゃなくて、劇中の役を観にきてるんだよ。
有名だろうが無名だろうが、いい演技であればほかの評価はどうでもいい。
先入観なく、自分の五感とか想像力だけで目の前の世界を観たいのに、
誰かのフィルターに通した安っぽい解説とか、関係ない装飾を押し付けないでくれよ、と。
知名度とかバックボーンとかをちらつかすなんて、
こんなの、テレビの特番のCMと同じ。タダで見れる、しかも本編じゃないやつ。
…などと思いながら観ていました。

でも、それがダメなわけではないです。
つくり手としても、俳優の知名度ありきでつくっているのだから。
これはそういう作品なだけであって、私の好みではないだけ。
実際、一緒に行った演劇ビギナーの人は
「最初に誰が誰だか説明してくれたから、わかりやすくてよかったー」と言ってましたし、
客席からはしょっちゅう笑いが起こっていたから、満足度も高いのでしょう。
だから、そういう意味ではこの舞台は大成功。
(ちなみに、その笑いがほぼ本編と関係なかったので私は集中力を削がれて苦痛でした。
観客は若い女子が異常に多く、リピーターも多かったよう)

あと、前日に歌舞伎というハイクオリティな伝統芸能を観てしまっていたせいで
なおさらチャラさが際立ってしまった(笑)
今日がどうこうというより、歌舞伎ってすごいんだなー、と改めて思いました。
指先から足先まで、1mmもブレがなく神経が通っているような。
そりゃ、物心ついたときから稽古してるだけのことはあるわ。と。。。

で、話は逸れましたが、勉強にもなりました。
万人受けするモノづくりの例を観れましたので。
私自身は自分の世界みたいなものが守れればいい、というオタクタイプなのですが
仕事ではそうはいきません。

で、最後に歴史と城の描き方ですけれど、これは意外によかったと思います。
人物設定はフィクションなのでものすごいことになっていますが、
基本的な歴史の流れはきちんと解説していて、数字的なところも間違いがないなあと思いました。
大坂城、徳川のものだったけど天守は黒くしてあったし!
冬の陣後も堀は埋まってなかったけど、「埋めたことで敗北決定」とは言ってたし!

大河ドラマもそうですけれど、基本的にエンターテインメントなので
本質と違うところで忠実かどうかばかりを議論するのはナンセンスだと思うんですよ。
作品として成立しているかどうかが問題です。
(適当な描写を事実と思い込んでしまうと教育上よくないというのも正論ですが、
やっぱり大切なのは、作品としての取り扱いの温度や敬意だと思います。
だって、史実と違うと言い出したら、キリがない。
官兵衛はどうなんだ、岡田くんカッコよすぎだろ、という話になりますから。
城や歴史に限らず、そこじゃないです、問題は)

真田ファンには見せられないさんざんなキャラクター設定でしたが(笑)、
最終的には魅力的な一面も描けていたし、興味をそそる存在には映ったんじゃないかなあ。
そもそも真田十勇士はミステリアスな人たちですしね。
これを機に、大坂の陣や真田信繁に興味を持つ人もいるんじゃないかしら。

劇中、大坂城に籠城するか否かを大野治長やら真田信繁やら評議するシーンで
発言者名がいちいちていねいに字幕で強調されてたんですが、
歴史を知っている私からすると、ここだけやけに字幕出すな、と感じるわけですが、
想定ターゲットには字幕がないと理解できない、という判断でその演出をしたと思うと
「そーだよね、ここまでしないとわからんよね」とやけに納得しました。
やはり、一般的には歴史って難しいジャンルなんですね。

歴史モノがどう表現されるのか、一般的なさじ加減を観るのも目的だったので、
その意味では収穫はあってよかったです。

勘九郎さんが、群を抜いてすばらしかったです。
見るたび、勘三郎さんに似てくるなあー!遺伝子おそるべし。
現代劇の勘九郎さんも好きなのですが…この舞台に関してはもったいなかったと思います、正直。
あと、加藤和樹さんの殺陣がとても上手でした。
松坂桃李さんは…いい人なんだなあ、と思いました。

ところで!!!
そんなことより、青山劇場が来年なくなることを知りショックです!
東京オリンピック開催の影響で、取り壊すのだとか。
…どーする、少年隊(笑)!!