城メグリスト

萩原さちこのプロフィール

城郭ライター、編集者。小学2年生で城に魅せられる。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演などもしています。

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肥前×唐津 陶磁器展 at 目黒雅叙園

東京都指定有形文化「百段階団」特別イベント
【肥前×唐津 陶磁器展 at 目黒雅叙園~酒井田柿右衛門&今泉今右衛門&中里太郎右衛門 の世界~】
のプレス発表会に出席してきました。

【武田双雲×百段階段】で訪れた目黒雅叙園に、うれしい再訪です。
武田双雲×百段階段のレビューはこちら→ click!

今回の展覧会は、
○酒井田柿右衛門さん・・・世界に名を馳せる“柿右衛門様式”で世界に名を馳せる人間国宝
○今泉今右衛門さん・・・江戸時代に将軍家へ献上されたや最高級の磁器“鍋島”の継承者
○中里太郎右衛門さん・・・日本の陶器の中でトップレベルを誇る唐津焼の代表釜
という、日本の陶磁器界を代表する3人の匠の作品が一同に介した展覧会。
明治の竜宮城と讃えられた歴史的建造物「百段階段」とのドラマティックな美の競演です。

陶磁器に関心のある私にとって、とても貴重で夢のような機会。ドキドキしながら会場へ向かいました。


目黒雅叙園といえば、現実から遊離した、江戸文化の息づくすばらしい空間。
とくに、再現トイレをはじめ螺鈿が見事。通路を歩いているだけで心が落ち着くような雰囲気があります。
記者会見が催された<竹林の間>も、それは見事な空間でした。

それぞれの展覧会はあるけれど、3つの窯がコラボレートするのは久方ぶりのことなのだとか。
そして、百貨店でも美術館でもなく、「百段階段」という歴史ある場で催されることは
やはりお三方にとっても特別な想いがおありになるようでした。

人間国宝の14代酒井田柿右衛門さん。とても腰の低い、品のあるお方でした。
「百段階段が見事で、焼きものが負けてしまうかと心配しましたが、見事な調和に感激しました」とのお言葉。

14代中里太郎右衛門さん。
あたたかみあふれる唐津焼を連想させる、やさしい笑顔のお方でした。
「畳の上で焼きものよさを伝える喜びを感じております」とのお言葉。

14代今泉今右衛門さんの実兄、今泉義雄さん。
伝統ある鍋島の世界を、わかりやすく語ってくださいました。
「時代とともに進化する、新しい鍋島の世界をご堪能いただきたい」とのお言葉。

佐賀県知事の古川康さん。
日本を代表する芸術品、有田焼・唐津焼のすばらしさを広めたい、という熱心なお言葉が印象的でした。
「百段階段が99段なのと同じように、次こそ最高を目指すという心で佐賀の焼きものの伝統を伝えたい」とのお言葉。

展覧会の開催を記念して、テープカット。

その後は、展覧会をじっくりと拝見してきました。

*百段階段とは(資料より抜粋)

2009年に東京都の指定有形文化財に指定された、目黒雅叙園に現存する唯一の木造建築。
江戸文化の贅を受け継ぐ昭和の色彩空間として、大切に保存されています。
ケヤキの板材で造られた99段の階段廊下をもつことから「百段階段」と呼ばれ、
階段廊下の南側には7つの部屋が連なります。
樹齢100年を超える床柱や、天井、欄間には当時屈指の著名な作家たちにおって創り上げられた世界が描かれており、
昭和初期における美の競演と大工の高い技術力をいることができます。

百段階段は東京都指定の無形文化財のため、通常は一切写真撮影することができないのですが、
今日は特別にOKだったので、たくさん撮らせていただきました。

百段階段だけでも見どころがたくさん(私ももう一度ご説明を受けたい!)。
そんなすばらしい空間で、匠の陶器を拝見できるなんて、本当に贅沢な空間ですね。

十畝(じっぽ)の間  ー焼きものの歴史・全国の歴史ー


陶器と磁器の違いの説明板など、焼きものビギナーにでも楽しめるような展示になっています。
モダンなテーブルコーディネートも素敵ですね。おいしいお料理が出てきそう。
二条城の二の丸御殿を連想させる十畝の間、私のいちばんのお気に入りです。



有田焼、唐津焼に限らず、全国の焼きもの日本全国焼きものMAPがあったり。
下段左から/京焼、丹波焼、益子焼、萩焼。 名称は聞いたことがあるでしょうか。
こうして並べられていると、それぞれの特長が一目瞭然で楽しいですね。

*十畝の間とは(資料より抜粋)

天井には前室に八面、本間に十五面、合計二十三面の襖仕立ての鏡板に、
荒木十畝による四季の花鳥画が描かれています。
黒漆の螺鈿加工が随所に見られる重厚な造りのお部屋です。

漁礁(ぎょしょう)の間  ー柿右衛門 世界水準の美の共演ー


青く澄みきった白から、乳白のやわらかくてやさしい白まで、
白という一見単調な色もさまざまなニュアンスを持つ素地。
代々柿右衛門窯に伝わる、赤絵がもっとも映える乳白色が、“濁手(にごしで)”です。
材料入手の困難から途絶えてしまった江戸時代の濁手の技術を現代に復活させたことで、
柿右衛門窯は1971年に国の重要無形文化財に指定されています。華やかな発色の赤い絵の具は、調合も困難。
その工程は気の遠くなるような緻密な作業なのだそうです。

柿右衛門様式は、有田焼の色絵の代表的な様式のひとつ。
濁手に映える、暖色系で描かれた鮮やかな大和絵などが印象的です。
17世紀初頭、オランダをはじめヨーロッパ諸国がこぞって有田の白磁を買いつけます。
とくに柿右衛門様式は人気が高く、模倣品が出まわったそうです。
有田焼もヨーロッパ的なテイストを取り入れ、発展を遂げます。
そんな中、古伊万里、とくに柿右衛門様式の熱狂的なコレクターだった
オーガスタ王がつくった磁器ブランドが<マイセン>です。
そこに描かれたのは、まぎれもなく、ヨーロピアンスタイルにアレンジされた柿右護門様式。
マイセンの食器が日本でも人気なのも、納得ですね。
柿右衛門様式にどこかエキゾチックな香りを感じるのも、こうした背景がルーツなのでしょう。

正座をして、このアングルで柿右衛門さんの作品を独り占め。
吸い込まれるように美しい濁手と赤色絵に心を奪われながら、 背後で柿右衛門さんが器についてお話されている。
わたくし、感激のあまり少し泣きそうになりました。

*漁礁の間とは(資料より抜粋)

室内はすべて純金箔、純金砂子で仕上げ、床柱は左右ともに巨大な檜で、
精巧な彫刻(中国の漁礁物語の一場面)が施されています。
格天井には菊池華秋原図の四季草花、欄間には尾竹竹坡原図の五節句が極彩色に浮彫されています。
廻り廊下は黒漆塗り、障子建具は火頭型の黒漆塗枠縁です。

草丘(そうきゅう)の間 ー太郎右衛門 唐津のチカラー


14代太郎右衛門さんのお父様、13代太郎右衛門さんの遺作品が展示されています。
私の中では壷と魚のイメージだった12代。やはり壷が多かったです。

*草丘の間とは(資料より抜粋)

格天井の秋田杉及び欄間には磯辺草丘の四季草花絵、瑞雲に煙る松原の風景が描かれています。
特に廻り廊下の北山杉磨丸太の桁(四間半の長大材でありながら本末動径)は銘木中の銘木です。
今日これほどのものを集めるのは至難であるといわれています。

静水(せいすい)の間 ー今右衛門の世界ー


鍋島は、江戸幕府への献上品や、将軍家・諸大名への贈答用とされた最高級品。
庶民や海外に出まわることはなく、鍋島藩は色鍋島を徹底的に保護しました。
豪華絢爛で繊細。優雅で気品あふれる美に惹きつけられる、色絵磁器の最高峰。
明治以降も変化を遂げ、まるで現代アートとも思えるアーティスティックな一面も感じられます。
インドやペルシャなどの幾何学模様がルーツといわれる、更紗模様も魅力です。
今泉今右衛門家は、鍋島藩の御用赤絵師(色鍋島の赤・黄・緑の絵付けをする絵師)。
色鍋島の伝統を伝え、国の重要無形文化財・保持団体に認定されています。


(写真左から/10代の作品、11代の作品、12代の作品)



(13代、14代の作品)

今回もっとも驚き感銘を受けたのが、時代とともに移り変わる、鍋島の変化。
鍋島といえば、江戸幕府の調度品。ずっとずっと伝統とステイタスを持ち続けているものだと思っていたのです。
ところがそうではなく、江戸幕府が終焉を迎えると、
オーダー主がいなくなり衰退し、経営は窮地に陥ったのだそうです。
厳しい時代を乗り越え、10代、11代、12代が鍋島の技術復興に生涯をささげました。
そして13代が“墨はじき”という古い技術を取り入れ、独自の鍋島を生み出します。
さらに、14代が新しい作風で鍋島を進化させています。

「伝承とはつなぐもの、伝統とはつくるもの」

記者会見での今泉義雄さんの言葉が頭をよぎりました。
職人、伝統、というと、じーーと狭い世界に身を置いて、
その世界だけにどっぷりと浸かっているような印象を受けることもあります。
だけれどそれは真逆で、深く長いものほど、とてつもない進化を重ねて日々生まれ変わっている。
<存続させること>と<伝統を継承すること>は違うのですね。

*静水の間とは(資料より抜粋)

奥の間の床柱は黄檗丸洗。
格天井の秋田杉には池上秀畝の鳳風・舞鶴、欄間四方はに小山大月の金箔押地秋草が描かれています。
次の間の天井及び欄間は橋本静水等の画伯によるものです。

星光(せいこう)の間 ー太郎右衛門の世界ー


唐津焼は、日本を代表する陶器のひとつ。
文禄・慶長の役後に帰化した朝鮮陶工によって大陸から伝承されたといわれます。
茶、皿、鉢などで発展し、一般的には素朴で渋い茶器が連想されます。
「一楽、二萩、三唐津」と呼ばれ、茶人の心を捉えて離さない唐津焼。
中里太郎右衛門は唐津藩の御用釜として歴史を持つ、唐津焼の代名詞です。


触らなくても土のあたたかみを感じます。
躍動感のある動物が一面に描かれた、とってもファンタジックな壷。
お隣のブルーグリーンの作品のタイトルは「MANTA」。ユニークですね。

太郎右衛門さんは、学生の頃現代彫刻を専攻されていて、ルネッサンスに心惹かれるのだとか。
中国はもちろん、ヨーロッパにも足を運ばれ、とくにイタリアが大好きなのだそうです。
フラットな考え方と感性をお持ちで、独自の世界を唐津焼に取り入れていらっしゃいます。
要素を融合させて、そこに新しい芸術を生み出す。 それが“つくる”ということなのですね。
お父様の13代も、年に3回は海外旅行をしていたそうです。
なんだか職人のイメージを覆されますよね。

*星光の間(資料より抜粋)

奥の間と床柱は北山杉天然絞丸太で、次の間の床柱は横出節、
両室とも格天井及び欄間一杯に板倉星光の四季草花が描かれています。

清方(きよかた)の間 ー柿右衛門の世界ー


柿右衛門さんの作品がずらりと展示されています。


このお部屋の作品は、どれも本当にすばらしかったです。
器のよさはなかなかデジカメでは写せないものですが、濁手のなめらかさは伝わるのではないでしょうか。


このお部屋の天井、私は好きなのです。
そして、廊下も。透けて見える組子障子が素敵。
窓のガラスは、手漉きガラスでしょうか?風景があたたかく見えます。
前回は心のカメラでしか撮れなかったので、思わずパチリ。

*清方の間とは(資料より抜粋)

昭和四十七年、九十四才で没した鏑木清方が愛着をもって造られた落着いた静かな茶室風の室です。
扇面形杉柾板に四季草花、欄間の四季風俗美人画ともに清方の筆です。
廻り廊下の天井は北山丸太をあつかった化粧軒、障子建具、組子など細心の造りです。

頂上の間 ー道具・型 アザーストーリーー


この部屋にも、柿右衛門さんの作品が。かわいらしい水差なども。

製作行程が丁寧に説明されていました。ビギナーでも見ていて楽しめますね(写真右)。
なが~~い年表。柿右衛門の歴史は長いのです(写真左)。

*頂上の間(資料より抜粋)

最上階に位置する資料室として2007年オープンしました。
目黒雅叙園が所有する彩色木彫板、螺鈿細工の蝶貝などの現物を解説付きで展示しています。

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今回も、とてもすばらしい時間を過ごさせていただきました。

そうそう、99段を確かめようと数えたのに、なぜか前回98段しか確認できなかった私。
今度こそ!と、一歩ずつしっかり数えて下りました。
・・・が、最後の一歩とともに私の口から出た言葉は「97!」でした。
う=ん、なぜだ?数を数えられないのか、私?

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